مشاركة

15. 琴の音と、指先の本音

مؤلف: 月歌
last update تاريخ النشر: 2026-01-16 20:33:34

帳の内には、蘭珠と芳玉が向かい合って立っていた。

部屋の中央には、まだ誰の手にも触れられていない琴が一面、静かに置かれている。

その周囲には、紙問屋の主人夫妻と、周蘭の姿があった。皆、どこか落ち着かない様子で、二人の間に視線を行き来させている。

「……」

蘭珠は、ひとつ息を整えたあと、ゆっくりと視線を上げた。

「少しの間、芳玉様と二人でお話ししてもよろしいでしょうか」

静かな声だった。

だが、拒む余地のない調子でもあった。

紙問屋の主人が、戸惑いがちに口を開く。

「しかし……先生、お腹も大きいのに――」

「ご心配、ありがとうございます」

蘭珠は柔らかく微笑んだ。

「けれど、琴の稽古は、まず本人の気持ちを知ることから始めたいのです」

その言葉に、芳玉の肩がわずかに揺れた。主人夫妻は顔を見合わせ、やがて小さく頷く。

「……わかりました。では、私たちは外で」

周蘭も一礼し、名残惜しそうに蘭珠を見てから、主人夫妻とともに帳の外へ下がった。

帳が引かれる。

布越しに、人の気配が遠ざかっていく。

しん、と静けさが落ちた。

残されたのは、蘭珠と芳玉。

そして、二人の間に置かれた、一面の琴。

蘭珠は
استمر في قراءة هذا الكتاب مجانا
امسح الكود لتنزيل التطبيق
الفصل مغلق

أحدث فصل

  • 妊娠中に追放された皇太子妃ですが、無骨な武将に溺愛されています   25. 揺れる夏

    楚凌が宮へ向かったあと、蘭珠は周蘭とともに、東門の詰所で待っていた。昼を過ぎ、陽は高く、夏の空気は重たく淀んでいる。門の外から吹き込む風も、生ぬるいだけだった。(……遅い)そう思ったのは、もう何度目だろう。詰所の長椅子に腰を下ろし、背を伸ばしても、胸の奥のざわめきは消えない。(……楚凌はいつ帰るの?)「蘭珠様、大丈夫ですか」周蘭が、そっと声をかけてくる。その瞬間、ふわりと視界が揺れた。立ち上がろうとしたわけでもないのに、足元が頼りなくなる。「……少し、目眩が」額に汗が滲んでいるのに気づき、蘭珠は思わず手で押さえた。「今日は暑すぎます。ここは風通しも悪いですし……一度、戻りましょう」周蘭の言葉は穏やかだったが、譲る気はなさそうだった。蘭珠は小さく頷いた。「ええ……そうします」詰所を出ると、外の光がやけに眩しく感じられた。腹をかばうように歩くたび、衣の内で重みが主張する。周蘭は、屋敷まで付き添い、冷たい水を用意してくれた。「私は用事を済ませてから戻ります。何かあれば、すぐに人を呼んでください」「ありがとう、周蘭」戸が閉まる音がして、屋敷は、しんと静まり返った。――ひとりだ。それを意識した途端、胸の奥に、不安がじわりと広がる。(瑞華国が奪った土地が……最悪の形で、蒼隼国に戻った)楚凌と使者の会話を思い出す。皇太子の弟が裏切った。国そのものを揺るがす火種になりかねない。もし、ここから動乱が広がったら――。(私は、その中で……この子を産むことになる)蘭珠は、思わず腹に手を当てた。そのとき、――小さく、確かな動きがあった。「……っ」わずかな胎動。初めて、はっきりと感じる命の存在。嬉しさより先に、動揺が込み上げる。(こんな時に……)守れるだろうか。この子を。楚凌を。自分自身を。胸が詰まり、呼吸が浅くなる。そのときだった。玄関の方で、物音がした。――戸が開く音。「……楚凌様?」反射的に声が出る。次の瞬間、土埃をまとった楚凌が、そこに立っていた。顔は張り詰め、目の奥に疲労と、抑えきれない苛立ちが滲んでいる。蘭珠は、不安に駆られ、駆け寄ろうとして――足を止めた。「楚凌様……どのような、状況ですか?」問いかける声が、わずかに震える。楚凌は一瞬、言葉を探すように視線を伏せ、それ

  • 妊娠中に追放された皇太子妃ですが、無骨な武将に溺愛されています   24. 呪いの行方

    「あなたの居場所は、もうここにはありません」雪瓔の言葉は、刃のように鋭かった。楚凌は、何も言い返せなかった。否定できない事実が、その言葉の裏に横たわっていたからだ。宮に来た。国の危機を前に、役に立てると思った。かつて預かった戦場の記憶も、陸曜の癖も、敵の出方も――すべて、まだ頭に残っている。だが、宮門は閉ざされた。門番という身分。それだけで、声を届ける資格すら与えられなかった。拳を握りしめる。爪が掌に食い込み、鈍い痛みが走る。(……何も、できなかった)歯を噛み締めると、奥歯が軋んだ。悔しさが、怒りが、胸の奥で重く澱んでいく。それでも――。楚凌は、ゆっくりと顔を上げ、雪瓔を見据えた。逃げるつもりはなかった。この女と向き合える機会を、ここで手放すわけにはいかなかった。「あなたが手引きして、瑞華国にもたらした土地が、再び蒼隼国へ戻った」声は静かだった。だが、一言一言に、確かな棘がある。「しかも今度は、瑞華国の軍備に通じた将軍が寝返った。……残念なことですね」嫌味とも、皮肉とも取れる言葉。雪瓔は、一瞬だけ楚凌を見つめ、それから、ふっと鼻で笑った。「残念?」唇が、わずかに弧を描く。その笑みには、勝ち誇った色も、焦りもなかった。「……願ってもないことだわ」その呟きはあまりにも低く、風に溶けるように消えた。楚凌の耳には届かなかったが、胸の奥に、嫌な予感だけが残った。雪瓔は視線をずらし、唐突に話題を変える。「蘭珠さんは、お元気?」その名を聞いた瞬間、楚凌の背筋に冷たいものが走った。「子が生まれるのは……冬のさなかになりそうね」淡々とした口調。まるで、季節の移ろいを語るように。「寒い冬のお産は、親も子も危険になるわ。体力も、気力も奪われる。……無事に済むかしら?」楚凌の中で、何かが切れた。「……蘭珠と、俺の子に何かしたら」声は低く、震えてはいなかった。だが、抑えきれない怒りが、その奥に潜んでいる。「俺は、あなたを許さない」剣を抜くよりも、重い言葉だった。雪瓔は一瞬、目を瞬かせた。それから、楽しそうに唇を歪める。「俺の子、ですか」その声には、嘲りと、どこか愉悦が混じっている。「よい覚悟ですこと。……ええ、とても」そして、ぽつりと落とすように言った。「でも――呪われた子だわ」楚凌の心臓

  • 妊娠中に追放された皇太子妃ですが、無骨な武将に溺愛されています   23. 宮門の内と外

    楚凌は、男の顔を見つめ問いかけた。「名は?」「韓守義(かん・しゅぎ)と申します」楚凌は短く頷いた。「……楚凌だ」名を告げながら、胸の奥に小さな違和感が残る。“楚将軍”と呼ばれることに、もう慣れていない自分がいる。韓守義は息を整える暇もなく、低い声で切り出した。「お願いがあります。このまま、私と共に宮へ来ていただけませんか」楚凌の眉が、わずかに寄る。「……俺は門番だ」言い訳ではない。それが、今の立場だった。将軍でも、功臣でもない。東門を守る、ただの男。「承知しています」韓は即答した。「ですが、今回の謀反――中心にいるのは、陸曜(りく・よう)将軍です」その名に、楚凌の目が細まる。「……陸曜か」かつて同じ戦場に立ち、互いの策を読み合い、先を奪い合った男。敵ではない。むしろ、誰よりも信頼できる“もう一つの刃”。「陸曜は、景衡王爺の側近として北方へ派遣されていました」韓は続ける。「雪瓔が殿下の側に入り、あなたが突然門番へ落とされたことに、強い憤りを抱いていたと聞いています。その不満に、蒼隼国が付け込んだのでしょう」楚凌は歯を食いしばった。「……あいつは、理の通らぬことを嫌う男だ。だが、謀反にまで踏み切るとは」陸曜は冷静で、現実を見据える将だ。戦は感情で動くものではないと、誰よりも理解している。「陸曜が指揮を執るなら、城は正面からは落ちません」楚凌は静かに言った。「必ず補給線を断ち、内応を使う。時間をかけて、瑞華を疲弊させるはずだ」韓守義の目が、大きく見開かれる。「……その読みを、殿下に進言いただけませんか?」「俺は、景炎様の信頼を失っている」「それでも――国の命運が掛かっています!」一拍の沈黙。楚凌の脳裏に浮かんだのは、詰所の窓辺に立つ蘭珠の姿だった。丸くなった腹。不安を押し隠す瞳。――国の一大事だ。「……わかった」楚凌は頷いた。「役に立つなら、行く」だが、すぐに続ける。「ただし、馬はない」韓は一瞬言葉を失い、すぐに察した。「……では、私が先に参ります」「構わん」楚凌は短く言った。「追いつく」韓守義が馬に飛び乗り、都の中心へと駆けていく。楚凌は、走り出した。---息が、重い。足が、以前のように前へ出ない。将軍だった頃は、肉も酒も欠かさず、身体は常に戦に備えていた

  • 妊娠中に追放された皇太子妃ですが、無骨な武将に溺愛されています   22. 東門に駆ける影

    沈と芳玉が、原稿を挟んで言葉を交わし始めてから、 茶屋の空気は、目に見えて熱を帯びていた。沈は原稿の一節を指でなぞり、芳玉のほうを見る。「ここだ。この場面、気持ちが一気に動く。だから、その前の説明は少し抑えたほうがいい」芳玉は眉を寄せる。「抑えるって……削るってこと?」「削るというより、置き換える。説明で言う代わりに、登場人物の一言で見せるんだ」沈は原稿を少し手前に引き寄せた。「ほら、ここ。“不安だった”って書いてるだろ。これを、行動に変える。手が震えるとか、視線を逸らすとか」芳玉は思わず原稿を奪うように覗き込む。「……ほんとだ。言われてみると、そのほうが生きてる」そして、口を滑らせた。「……文景、やるじゃん」言った瞬間、芳玉ははっとして口を噤む。 だが沈は一瞬目を丸くしたあと、声を立てて笑った。「久しぶりだな、その呼び方」「……昔から、そう呼んでたでしょ。今さら変えるほうが変だし」そっぽを向く芳玉の耳が、赤い。蘭珠は茶碗を包む指先に、そっと力を入れた。(……ここまででいい)芽吹いたばかりの恋に、これ以上の手出しは野暮だ。 周蘭も同じ判断に至ったのか、静かに一歩下がる。蘭珠は席を立った。「沈様、芳玉様。お話の邪魔をしてしまいますから、私たちはこれで」沈が顔を上げる。「え、もう?」芳玉も反射で口を開きかけ、慌てて引っ込めた。「……あ、うん。そうだよね」沈は素直に頭を下げる。「紹介してくれてありがとう。……本当に」「こちらこそ」蘭珠は微笑み、一礼した。茶屋を出ると、周蘭が包みを差し出す。「詰所へ行くなら、と思って。饅頭です」「ありがとう。気が利くわね」周蘭は何も言わず、蘭珠の歩調に合わせて歩く。 腹はもう、衣の上からでもはっきり分かるほど丸い。ひょこ、ひょこ、と。 自分では平気なつもりでも、歩みは遅い。東門が見えてきたとき、詰所の前に立つ楚凌と目が合った。楚凌は、すでにこちらに気づいていた。(……やはり)今日、芳玉と沈が会うことは、事前に話してある。 だからこそ、詰所から目を離さずにいたのだろう。楚凌は歩み寄ってきた。「……終わったのか」「ええ。とても、良い雰囲気でした」楚凌の視線が、無意識に蘭珠の腹へ落ちる。「……無理はしていないか」「大丈夫です。周蘭もいます」それで

  • 妊娠中に追放された皇太子妃ですが、無骨な武将に溺愛されています   21. 言葉が先に、心を追い越す

    日を改めて、蘭珠は芳玉を訪ねた。紙問屋の裏手、帳場の奥にある小さな部屋は、相変わらず紙の匂いが濃い。机の上には書きかけの原稿が積まれ、墨の乾ききらない紙が端に置かれていた。「……え? 私が?」話を聞いた芳玉は、勢いよく顔を上げた。「ちょ、ちょっと待ってください。沈が? 私の本を読む?」言葉が追いつかず、両手をばたばたと動かす。「い、いや、あの……確かに私は書いてますけど!でもそれ、遊び半分というか、勝手に書いてるだけで……」「遊び半分で、あれほどの分量は書けませんよ」蘭珠は穏やかに言った。芳玉は一瞬口をつぐみ、ぷいと横を向く。「……だって、誰かに読ませるなんて思ってなかったし」「沈様は、本を愛する方です」その一言に、芳玉の肩がぴくりと揺れた。「……沈が、そんなこと言ってました?」「ええ。物語を、とても大切にしておられました」芳玉は、しばらく黙り込む。それから、机の端に置かれた原稿の束をちらりと見た。「……読むだけ、なんですよね?」「はい。今回は“女性作家を紹介する”という名目です」「……それなら」芳玉は勢いよく立ち上がった。「読んでくれるなら、いいです!面白くないって言われたら、理由をちゃんと聞きます!」蘭珠は思わず微笑んだ。芳玉は原稿を丁寧に撫でた。「……沈に会える」---約束の日。蘭珠は周蘭を伴い、芳玉と連れ立って東門近くの茶屋へ向かった。「緊張してる?」「してません!」即答だが、歩幅がやけに速い。「……でも」芳玉はふいに足を止め、前方を見た。茶屋の軒先に、見慣れた背中がある。沈文景だった。落ち着かない様子で門の方を見やり、また茶屋を振り返る。「あ……」芳玉の声が、思わず漏れる。同時に、沈もこちらに気づいた。一瞬、目が合う。沈の目が大きく見開かれた。「……芳玉?」「……っ」芳玉は反射的に原稿の包みを抱きしめた。蘭珠は、そっと背中を押す。「参りましょう」---茶屋に入り、席に着いても、沈はまだ半信半疑の顔だった。「……話って、芳玉のこと?」「はい」蘭珠は静かに頷く。「こちらが、先日お話しした“物語を書く方”です」「……まさか」沈の視線が、芳玉へ向く。芳玉は顔を上げ、少しだけ胸を張った。「……久しぶり。沈」沈は言葉を失い、それから小さく笑った。「……

  • 妊娠中に追放された皇太子妃ですが、無骨な武将に溺愛されています   20. 詰所の休み時間

    東門の詰所は、昼の人の流れが引いたあと、ひととき穏やかな空気に包まれていた。門の内側に設けられた簡素な詰所。壁際の長椅子に腰を下ろし、門番たちは交代で休憩を取っている。楚凌と沈は並んで腰掛け、他愛のない雑談をしていた。その入口に、小さな包みを抱えた蘭珠が姿を見せた。「……失礼いたします」その声に、楚凌がすぐ顔を上げる。「蘭珠様? どうしてここへ……」驚きに目を見張りつつも、すぐに立ち上がる。蘭珠は一歩中へ進み、沈に向かって穏やかに微笑んだ。「いつも夫がお世話になっておりますので」そう言って、包みを差し出す。「ささやかですが、お茶菓子をお持ちしました」沈文景は一瞬、言葉を失ったように目を瞬かせた。「……え、元皇太子妃の——」「沈」楚凌が低く名前を呼ぶ。沈ははっとして頭を掻いた。「あ、悪い。つい……」立ち上がり、軽く姿勢を正す。「沈文景です」「蘭珠と申します。いつも夫が、お世話になっております」丁寧に一礼すると、沈は慌てて手を振った。「いやいや、こちらこそ」包みを開けると、甘い香りがふわりと広がる。「お……団子だ」「休憩中でよかったな」楚凌が言うと、沈は小さく笑った。「運がいい」三人は詰所の端に腰を下ろした。楚凌は蘭珠を席に案内する。門の外からは遠く人の話し声が聞こえるが、詰所の中は穏やかだった。沈が団子を一つ口に運び、ぽつりとこぼす。「……うまい」「それはよかったです」蘭珠が微笑む。「久しぶりの甘味です」沈は団子を手にしたまま、少し考えるように視線を落とした。「……自分の店を持ちたくて、金を貯めてるんです」楚凌が沈を見る。「だから、無駄遣いはできない」沈は肩をすくめた。「菓子は好きなんですけどね。つらいところです」蘭珠はくすりと笑った。「もしかして……本屋、ですか?」沈が顔を上げる。蘭珠は言葉を継ぐ。「夫から、本のお話をよくなさると聞いておりましたので」沈は一瞬動きを止め、それから照れたように笑った。「……ええ。昔から本が好きで」「沈は、字を見込まれて門番になったんだ」楚凌が自然に言葉を添える。「通行証や荷の書付を確認する役が必要でな」「字が読めるだけで、重宝される」沈は苦笑した。「本当は、最初から門番になるつもりじゃなかったんです」声が少し落ち着いたもの

فصول أخرى
استكشاف وقراءة روايات جيدة مجانية
الوصول المجاني إلى عدد كبير من الروايات الجيدة على تطبيق GoodNovel. تنزيل الكتب التي تحبها وقراءتها كلما وأينما أردت
اقرأ الكتب مجانا في التطبيق
امسح الكود للقراءة على التطبيق
DMCA.com Protection Status